数日前からの風邪をこじらせて、私は大学の授業を休講にし、家で床についていた。「バタン!!」と言う音がして誰かが入ってきた。「エッ!!まだ午前中なのに誰だろう??」と思ったが、熱があり、すぐには起き上がれなかった。
夫も地球人も今のこの時間には戻るはずがないと、頭から思い込んでいた私の眼に、何か白いものがピュッと掠めた。ニコニコ笑いながら、夫が立っているその手の先を見ると、、、。紛れもなく子犬。それも日本でも飼い慣れていたダルメシアン(101匹ワンちゃんのあれ)。まだ4ヶ月か5ヶ月ぐらいのチビ。
大の犬好きな私だが、ダルメシアンはかなり大型犬。マンションの中で飼うのは、、、、となんとなく諦めかけていた。「どうしたの、この犬???」と問いかける私に、「いやあ、前から台北の犬屋さんに頼んでおいたんだ。今朝会社に行ったら、手元に届いたから見に来てくれという電話があってさ、行ってみたら可愛いから買ってきた。テツ、きっとビックリして大喜びするぞ~~!!」と満面の笑み。
このチビ犬は、早速クンクンクンクンその辺の臭いをかぎ始め、「危ない!!」と思うまもなく、ジャ~~~!!さっそく、そそうした。家中粗相されちゃ堪らない。幸い我が家は絨毯ではなく、拭き掃除可能なタイル。でも犬は最初の一週間の躾が肝心。もう私は熱があるのも忘れてシャッキリとし、早速あれこれと、このチビの必需品を揃え始めた。
午後、地球人が「ただ今!!」と帰ってきた。何にも知らない地球人。予想だにしていない子犬がいきなり飛び出してきて、「ウワ~~~ッ!!犬だあ!!」とビックリするやら喜ぶやら。しばらく興奮冷めやらず。本当に我が家の一員になるんだ、とわかった地球人は「僕、毎日散歩につれていく~~!!」とそれはそれはウキウキとしていた。
そのチビはボビーと名づけられた。しかし、一週間ぐらい元気に飛び回っていたボビーが、突然物凄い下痢をして、止まらなくなった。勿論、私はすぐに獣医さんの所に連れて行った。暫く診察し、便もとり、調べていた獣医さんは、力なく首を横に振った。「残念ですが、かなりひどい犬の赤痢のような症状で、多分70%助からないと思います、、、」と気の毒そうに言った。
「エッ!!本当ですか??何とかならないんですか??方法は??」と一生懸命食い下がったが、この獣医さん、「もう、諦めなさい!!」とでもいうような様子で、「一応下痢止めの薬は出しておきますが、まあ覚悟してください。まだ体力もない子犬で、この状態では、、、、、」と言葉を濁した。 人には感染する心配はない、とのことで、とりあえず家に連れて帰るしかない。
今朝、地球人は幼稚園に行くのも残念そうに、このボビーを抱きしめていたのに、、、、。「なんていったらいいんだろう??」と家に帰る道々、暗い気持ちで考えていた。でも又、又、あの追い詰められたときに猛然と湧いてくる、諦めの悪さがよみがえってきた。「何も獣医さんは、完全にダメだ!」と言った訳じゃない。「まだ30%も可能性があるじゃないか!!私が諦めてどうする!!」と気を取り直し、早速薬局に寄って、太い注射器と点滴用のチュウブを買い揃えた。
ボビーは頻繁に起こる嘔吐と下痢で、もうすっかり元気をなくし、昨夜から何にも食べていない。私はとにかく、「少しでも栄養をとらせなくちゃ!」と取りあえず水でどろどろにしたパピー用のドッグフードを根気よく、与えてみた。勿論見向きもしない。ドンドン弱っていくようだ。目もトロンとし始め、ただぐったりと寝ている。水分だけは補わないと下痢がひどいボビーは脱水症状になる。
悪戦苦闘をしているうちに、地球人が帰ってきた。続いて夫も戻ってきた。二人はただただ、どうしていいか分からないで、オロオロオロオロしている。「ねえ、ママ大丈夫??ねえ大丈夫だよね。ボビー死なないよね??」と小さい頃から命の大切さを繰り返し教えられてきた地球人は、今、ぐったりとして動かないボビーが、大変なことになっていることを、本能的に理解していた。
私は小さな座布団をボビー用に敷いて寝かせ、そのとなりに3枚座布団を並べて敷き、ボビーと同じ目線の高さで添い寝した。ボビーがよろよろと起き上がると、すぐ手を貸して用を足すのを助ける。相変わらずすごい血便だ。しかしここで諦めるわけには行かない。
次の日、注射器の針を挿す部分に、点滴のチュウブを短くつけ、重湯の中に栄養剤を混ぜたものを吸い上げて、ボビーの口を開かせ、無理やりに流し込んだ。勿論彼はすぐ吐き出しそうにする。私はピュッと流し込んだら、すぐに両手でしっかりと口を押さえ、無理やり飲み込むまで手を離さずに待っていた。
衰えた力を振り絞って反抗するボビーに「ゴメンね!!いやなことして!!でも飲まなきゃダメだよ!!飲んで!!」と言い聞かせながら、何度も何度も繰り返した。
勿論暫くしてすぐに吐き出した。でも私は何かの本で読んだことがある。飲んだり食べてたりしてから吐き出しても、決して全部吐き出すわけじゃなく、ほんの少しだけど胃に残るということを、、、、、。
この本の情報に、かすかな望みを抱いて、1日6回にわけて、流し込み続けた。何も脂肪分のない、胃にやさしい重湯と栄養剤。「どうか少しでも胃に残ってくれますように、、、、」と祈るような気持ちだった。
地球人は幼稚園から戻ると、こんな私の必死の看護を、心配そうに見ていた。自分の愛するボビーを何とか救おうと、夜も添い寝している私を見て、彼も何とか家族になったボビーの命を救おうと、私が「ほらタオル!!紙!!」というと、すぐに飛んで行って持って来た。
私が側に居ないときには、「可哀相だね!!早く良くなんなきゃダメだよ!!よくなったらお散歩に連れて行ってやるからね!!」とか、ぶつぶつ言いながら、ボビーの頭を愛しそうに撫ぜていた。この時、地球人と私は完全に同じ気持ちで、同じ目的に向かって心を一つにし、助け合っていた。
丸二日間ぐらいで、ボビーの血便は止まった。しかし、依然として、飲んでは吐き飲んでは吐きを繰り返していた。オッ!!三日目、吐く間合いが少しひらいてきた。ぐったりと、死んだように元気がないのは変わらない。当たり前だ。まだ小さい子犬。体力がない。でも、少しずつ吐く回数が少なくなってきたのだから、間違いなく、少しは飲んだものが胃に残っている。
それが体力回復に少しでも役立ってくれれば、、、と淡い期待を抱いていた。四日目。ボビーの下痢が止まった。そして丸1日、ボビーは大便をしなかった。次の日も、元気は無いが、生きている。そしてその夜、ボビーは真っ黒な、柔らかい大便をたっぷりした。
それからのボビーは、流動食を流し込んでも、吐き出さなくなった。私は喜んで、重湯を少しずつ、固めにしていった。そして、パピーのえさもすこしづつ与えてみた。勿論、お湯で柔らかくふやかしたものだけど、、。
ボビーは峠を越え、日一日と元気を取り戻していった。その間、私はすべてのスケジュールを変更し、ボビーの命を第一優先にした。縁あって家族になったボビー。彼をむざむざ病気で死なせることは、日頃の私の教育に反する。ほどなく、地球人とボビーの楽しそうな遊びの時間は、取り戻されていった。
そして、その後地球人が留学の為台湾を離れるまで、ボビーと地球人の濃密な時間は続いていった。涙ながらに別れを告げた地球人が、留学先の学校で、最初に書いた作文の題は「ボビー」だった。やはり、その別れ以後、二度と地球人に会うことなく、ボビーは天に召された。しかし地球人の心の中には、きっと大切な思い出として、ボビーが生き続けているに違いない。



2 コメント:
感動的な話だね。 ボビーは幸せなわんこ。 皆の愛情に包まれて生涯暮らしたんだね、、、Olive
Oliveさん、
コメントありがとう。
いつも、命の大切さを
話していたから、今、科学で
病気と闘う仕事を選んだのかもと
時々思う。我が家の犬好きは
家族の絆をより強めた感じ。
カナダより
コメントを投稿