2008年11月28日金曜日

フランス語との戦闘開始

地球人が日本の我が家から留学先に向かう頃には、もうすでに、日本の家族もかなり国際化されており、湿っぽい、別れの悲壮感はなかった。というのも、地球人は、留学最初の年でもあり、日本の家族とクリスマス休暇を過ごすことになっていて、僅か5ヶ月ちょっとで、又、会えるとわかっていたからだ。勿論、その時は私も日本で合流することになっていた。

フランス語の問題だけを考えれば、丁度耳が慣れ、調子が上がってくる頃。勿論、ケベックで頑張れるだけ頑張った方がいいのかも知れないが、やはり、初めて親元を離れ、独立する地球人の心のケアを考えたら、クリスマスに一度、会える楽しみを胸に頑張った方が、効率が上がるだろうと考えていた。この日のために新調した、紺のスーツを身に着けて、ラジコンカーの入ったリュックを担ぎ、地球人は日本の家を後にした。

義妹の家に着いたら、地球人の為には、なるべく早く、フランス語漬けにした方がいい。その為の新学期開始よりかなり早いケベック到着。私は、地球人を送りこんだら、一週間ぐらいで、早々に戻ってくる予定だった。だから、直接モントリオールには入らず、3日ほどバンクーバーに立ち寄り、時差調整と母子の旅を楽しむことにしていた。従って、地球人の初のカナダ上陸地は、バンクーバーだった。

スタンレーパークに行ったり、市街地をぶらぶらしたり、地球人の大好きな海鮮料理のレストランで、魚介類を食べたりして、旅を楽しんだ。ワイン入れのようなミニバケツに入った山盛りの貝や、海鮮料理を美味しそうに、次から次へと平らげて行く地球人。まったくいつもと変わりない。「確かに、厳しく鍛え上げた成果が出ているなあ!!」と、ホッとした。

彼には、これから待ち受けている、新たな環境や、フランス語での学習に対する不安感も緊張感も全く感じられず、食欲も抜群。明るく笑って元気一杯だった。港に近いホテルのベランダから、綺麗な夕陽を眺め、停泊しているヨットやクルーザーの風景を母子で眺めた。ふと時計を見ると、もうかれこれ夜の11時近く。ようやく暗くなり始めたのが、こんな遅く。「地球は広い!!」と改めて深い感慨を覚えた。

この旅は、地球人よりむしろ、私の方が不安で、感傷的になっていた。ベストを尽くし、鍛え上げたとは言え、親から離れ、初めての独立生活。「本当に大丈夫なのかな??」と落ち着かない気持ちだった。地球人は、「お休み!!」と何の屈託もなく眠りにつき、改めて我が子ながら、「逞しいなあ!!」と羨ましくなった。

バンクーバーから、いよいよ目的地モントリオールまで、5時間のフライトだ。この頃には、すでに一人旅も含め、飛行機に乗りなれていた地球人は、チェックインやボーディングを待つ間、ちょっとでも時間が出来ると、雑誌を出して読んだり、本当にボ~~~ッとしている時間が少なく、その準備と段取りのよさには感心した。これなら大丈夫だろうと、少し安心した。

フランス語の準備としては、約一年余、私の教えていた大学のフランス語系の先生に、週に2時間ぐらい、会話を習っていた程度だが、後の地球人の話では、「あんなもん、やっても無駄!!全然役に立たなかった!!」と失礼な本音をいっていた。私も自分の過去の経験から、「週2時間ぐらいの会話じゃ、まあ、気休め程度ぐらいにしかならないだろう!!」と予想していたので、「やはり、、、、」と思ったぐらいだった。

義妹の家に着いた地球人は、早速、家族全員から、フランス語の洗礼を受けた。耳にするのはフランス語ばかり。勿論まだ、地球人には対応しきれない。しかし、彼にはめげている様子は全くなかった。ジッと耳を澄ませ、真剣に聴いていた。

私は、すでに彼の耳に開いてある音域なら、フランス語の発音にはかなり早く対応でき、日常会話ぐらいなら、あまり時間はかからないだろうと期待していた。しかし、まだまだそれを証明するには、時間がかかるし、安心はできない。

何よりも心配だったのは、フランス語で、物理、科学、歴史、社会、作文、宗教などの授業があることである。勿論、読んだり書いたりもしなければならない。それに、フランス語の文法は、習ったことがある人なら、誰でも知っていると思うが、非常に決まりごとが多く、複雑だ。

フランス語の空白の12年間を、彼の耳がどの位早くとらえられて、どのぐらいでネイティブの人々に語彙が追いつけるのか、皆目見当がつかなかった。ただ、唯一の救いは、フランス語と英語は、かなり似ているスペルが多く、「読めば、意味は想像できるものが多いのでは?」と思っていた。

たとえば、music は musique。皆さんもすぐ想像できるでしょう??chanceはchance(フランス語はシャンスに近い発音)など、全く同じスペルで発音のみが違うものも含めれば、共通語は数万語あると言われているので、英語の読解力が強い地球人には、大きな助けになる。

すでに、英語の語彙の空白の5年間を埋めた経験がある地球人。この時は、まったく共通語のない言葉を耳でとらえ、読み、書き、話すことも追いついたのだから、共通語がかなりあるフランス語も、そのうち彼ならなんとかするだろうと、ただ信じたい気持ちで一杯だった。

しかし前に義弟から、外国からの留学生、特に東洋からの留学生には、フランス語の壁は高く、それらの学生のほとんどが、留年を余儀なくされたり、補講をさせられたりして苦戦していると聞かされており、「まあ、その時になってオタオタしないよう、心の準備だけはしておこう!!」と自分に言い聞かせていた。

私はこの時、「健康第一!!ダメなら又、やり直せばいいじゃん!!」という、我が家のルールをあくまでも貫く覚悟でいた。こうして、後ろ髪を引かれる思いで、地球人をモントリオールに残し、私は日本経由で台湾に戻った。もう、泣いても笑っても、新たな地、ケベックでの戦闘の火ぶたは切られた。こうして、地球人の過酷なフランス語との戦いは始まった。

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