地球人は、フランス語の公約を達成し、クリスマス休暇を楽しむため、一人で元気に日本に戻ってきた。「どう?フランス語、大変だったでしょう??」と訊く私に、「うん、ちょっとね。」と簡単に言って、「でももう、大丈夫だよ!!」と付け加えた。
大丈夫というのはどんな意味か分からなかった私が、再度確認すると、「もう、別に生活する会話には、不自由していないよ!!」とあっさり答えた。地球人がフランス語の環境に入って、まだ5ヶ月目ぐらいの時だった。
印象としては、英語を入れた時より、かなり早い。でもそれには、義弟の、家族に対する厳しいルール、つまり、「家ではフランス語しか話させない!!」というケベック人独特の強いプライドが、大いに役立ったものと思われ、感謝せずにはいられなかった。やはり、言葉を早く入れるには、絶体絶命の環境が最高で、無理にでも使っていれば、すぐに慣れてくるからだ。
フランス語の公約を果たした地球人の新たな目標は、もう、勉強にはなかった。彼は、「ねえ!!ママ、お願いがあるんだけど、、、、。アイススケートの靴、買ってもいい??」とねだった。
「エッ!!アイススケート??」と訊く私に、「ママ、アイスホッケーってカッコいいよ!!僕もホッケーやりたいんだけど、クラブのコーチに言ったら、まずスケートから練習しなくちゃ、とてもホッケーはできないって言うから、、、、」と、すでに夢はホッケーに飛んでいる。アイスホッケーの素晴らしさばかり、トウトウと語って、彼は日本で買った、新しいスケート靴を抱え、又、ケベックに戻って行った。
確かに、あの立派な学校のアリーナを見学してきた私は、カナダの国技とも言えるアイスホッケーに、この学校が、どれ程力を入れているのか、すぐに分かった。予想どおり、この学校のアイスホッケーチームはかなり強豪で、正式な第一グループの選手になるには(正選手)、大勢の希望者と一緒に厳しいテストに参加して、見事パスしなければならない。
正選手は学年で僅か20名そこそこしか選ばれないのだ。その正選手達は、栄えある学校のユニフォームの着用を許され、ホーム用、ビジター用と2種類準備して試合に臨む。他校との交流試合にも始終出かけて行き、時には国境も越えて、遠くアメリカにまで遠征していた。
そんな選手達の練習や試合の風景を見ていたら、地球人の体は、やりたくてやりたくて、ウズウズ。堪らなくなってしまったらしい。そして、まだスケートをやり始めてすぐの頃、無謀にも、「俺、この学校を卒業するまでに、必ず、学校の正選手になって、あの格好いいユニフォーム姿をママに見せてやる!!」と宣言してしまったのだ。
これを聞いた義妹夫婦は呆れたような顔をして、「無理、無理、無理!!カナダの子は2歳ぐらいからスケート靴を履いて滑り始め、4歳ぐらいからは、地元のクラブに入り、厳しい訓練を受けている子がウジャウジャ一杯。そんな子供でも、この学校では正選手になれず、B クラスや Cクラスに甘んじているのがたくさんいるのに、、、、、」と、頭から相手にして貰えなかった。
確かに地球人のいとこの、2歳ぐらい下の男の子は、かなり前から、地元のクラブチームで特訓を受けていて、義弟も義妹も、週に3回ぐらい交代で送り迎えをし、週末は試合にも参加していた。試合は大抵、隣町の同年代の子供たちとのトーナメントで、かなり頻繁に行われており、自分の町や地区を代表する子供のチームを応援する、親たちのフィーバーぶりは、凄まじいものだった。
「ああ、カナダ人は本当にアイスホッケーが好きなんだなあ!!」と私は初めて知った。日本では、まだマイナーなスポーツのアイスホッケーだが、カナダの子供達にとっては憧れのスポーツで、アイスホッケーの英雄の背番号を背負ったチビッコの可愛い滑りには、思わず微笑んでしまうほど。ヘルメットを被り、防具をつけ、氷の上をヨチヨチと滑っている2~3歳のチビッコは、本当にロボットみたいで可愛かった。
ご存知だと思うが、ケベックの学校制度はアメリカや日本と違い、中学高校が連結していて、5年制。その後2年間のセジェップ(専門学校)、それから大学に進む。すでに地球人は最初の一年は、スケートだけで終わり。本格的なホッケー練習など、したこともない。
もし、「正選手になる!!」という無謀な公約を本当に果たすつもりなら、あと僅か3年しか与えられた時間がない。しかし、何度も言うようだが、地球人は頑固で、一旦自分でやると決めたことを誰かに、「無理、無理、無理!!」などと笑われると、「よ~~し、やってやる~~う!!」という静かな反骨心がかなり強い。
まだ、1年生の終わりの夏休みにはかなり間がある頃、地球人は日本の兄に、「今年の夏休は、ぜひ、日本のアイスホッケーチームで特訓をしてもらいたいんだけど、ジジ(地球人は兄をこう呼ぶ)、誰か適当な人知らない??」と連絡してきた。兄は、早速、同じ旅館組合の友人が、昔、高校、大学時代にアイスホッケー選手だったことを思い出し、連絡してくれた。
そもそも、日本ではあまりメジャーなスポーツではなく、やりたくても、防具を買うだけでもかなり高く、なかなか子供には習わせ難いアイスホッケー。北海道や東北などの寒い地方なら、野外アリーナも多く、ポピュラーだが、まさか東京の、しかも兄の遊び仲間の一人に、偶然にもそんな人が居たなんて、、、、ここでも本当に地球人は強運の持ち主だ。
この友人は、高校、大学リーグでかなり鳴らした選手だったとかで、アイスホッケー界に顔も広く、早速、高田の馬場にあるアリーナのコーチに渡りをつけ、地球人をそのコーチと仲間達で、特訓してくれるよう、アレンジしてくれた。
地球人は、夏休みが来る前に、カナダで古い防具を買いそろえ、張り切って日本に帰国した。彼の選んだポジションは、何ともっとも責任の重い、ゴールキーパーだった。



0 コメント:
コメントを投稿