さて、オタワのPresience course(2年コース)の単位を一年で取得した地球人は、二つの大学に進学希望の願書をおくった。その前に、私が勧めたボストンの名門大学も、見学と調査の為、車で訪問したが、地球人にはこの時すでに、自分の青春を燃やしたカナダが第一希望になっており、最終的に自分でカナダに決めて二つに絞った。
第一希望はモントリオールの大学で、国際校として海外からはもとより、カナダでは、バンクーバーなどの西部からも、ワザワザ留学する学生が多い人気校だった。前身は医学校で、科学は強かった。彼にとっては、総合的に(学費も含めて)素晴らしいとの判断を下したようだ。
もうひとつは、オタワの大学で、Presience courseから直接上がっていける大学だった。この大学も、カナダの首都、オタワを代表する大学で、勿論、遜色はなかったが、こと科学だけを比較するなら、当時地球人の判断では、モントリオールの大学の方に軍配が上がった。
しかし、第一希望のモントリオールの大学からは、Presience courseが終了間近となっても、返事がなかった。そして、地球人から私に電話で相談があった。元々は義弟の勧めで、義弟の娘も通っていたオタワの大学に入るつもりだった地球人には、決めかねる問題だったらしい。なぜなら、オタワの大学に入るなら、早速500ドルの前払い金を納めなければならないタイムリミットが迫っていたからだ。
地球人に意見を訊いたら、「やはり、第一志望はモントリオールの大学だが、今の状況では、どうなるか分からない」という返事だった。それを聞いた私は、即座に、「それなら、500ドルぐらい、別に無駄になってもいいから、取りあえず納めておいて、もしモントリオールの大学にパスしたら、そっちに行けば???」と提案した。地球人は「わかった。じゃそうする。」と短く答えて、電話を切り、前払い金を納めた。
7月一杯には、まだ返事がなく、そろそろ諦めかけていた時、突然、モントリオールの大学から、入学許可が下りた。この大学には、東南アジアからの留学生も多く、選択に時間が掛っていたらしい。この頃、この大学は、まず地元のカナダの学生を50%優先、そしてアメリカからの学生を25%優先、残りの25%をヨーロッパ、アジア、その他全ての地域の学生に割り当てるらしい、との噂があった。
地球人のように、学生ビザで滞在している東洋の学生は、残りの25%の中の、更に少ない%の一人と数えられ、とてもとても狭き門だった。トロント、バンクーバー、南北アメリカ、ヨーロッパにも人気があったこの大学は、ますます地球人の憧れとなっていった。
入学許可を受け取った地球人は、正に大喜びで、即座にこの大学に進学することを決めた。500ドルは無駄になったが、私も地球人が一番希望する大学に入れて、心から祝福した。こうして、希望に胸を膨らませ、地球人は大学一年生になった。この学校は、モントリオールの街のど真ん中にあり、正門から見える古いドームが、この大学の、長い歴史を物語っていた。
後に、地球人の大好きなアイスホッケーの「正式な試合ルール」を完成したのも、昔昔の、この大学の在校生だったと知った地球人は、大いに興奮して喜んでいた。カナダでは、遥か昔から、教授の交流、研究生の交流、ホッケー試合の交流などが度々行われていたボストンの名門大学とは、姉妹校と呼ばれていた。地球人は晴れ晴れとした顔で、入学を許可された自分の幸運を喜び、授業開始を待ちかねていた。
モントリオールでの生活を始める為、地球人が、あの凄まじく古いオタワのアパートから、モントリオールのアパートに引越しすると決まり、私は又、遥遥と太平洋を越えて出かけていった。なぜなら、これから最低4年間は、モントリオールでアパート暮らしをすることが決まり、少し家具や電化製品など、必要なものを買い揃え、暮らしやすくしてやらねばと思ったからだ。
今度地球人が見つけたアパートは、前のアパートより、余程新しかった。ここは部屋が3室あり、3人共同生活で、それぞれ一つづつ個室を使い、応接間、キッチン、お風呂などは共用のアパートだった。ここで、地球人は他の二人の住人とワンフロアーをシェアして暮らすことになった。部屋がかなり広かったので、私は、ソファとか、テレビや勉強机などを買い揃えて部屋を整えた。
待ちかねていた授業が始まって暫くすると、あんなに喜んで入った大学なのに、何だか地球人の様子がおかしい。訊いてみると、「俺、この大学で勉強している奴、あんまり好きになれないかも、、、、、、」と意外なことをいい始めた。流石にどの学生も物凄い勉強家が多く、クラスが勉強一色で、ぴりぴりしているらしいのだ。初め70名でスタートしたクラスが、あっという間に、半分ぐらい脱落してゆくほど、スゴイと暗い顔をした。
これまで、勉強も本当に順調に来ていて、まったく楽勝の感をもっていた地球人が、初めて、「スゴイ奴は世界に多い!!」と実感したのも、この頃だっただろう。地球人はブログの名言集で、「男は自分の能力以上のものに挑戦しなければ、本当の力を出し切ることはない、、、、(ちょっと違うかもしれないけど、こんな意味)」と言っていたが、きっと、初めて、スゴイ軍団に入った気分がしたのだろう。
学生の多くは、何か話しかけたり、ちょっとノリで冗談を言っても通じず、教えてもらいたいことがあっても、まるで敵を見るように、すぐ身構えるのだそうだ。甘い顔をしていたら、自分が落とされるかもしれないと、まるでお堀を深く掘って、他人を近づかせないようなムードで、ピリピリしている学生達に、地球人は大いに失望したらしい。
朝5分遅刻しても教室に入れないとかで、本当に、あんなに緊張して、毎朝学校に駆けつける地球人を私は初めて見た。欧米の大学は、無事卒業するのが大変と言われているが、本当らしい。
入るのも大変、出るのも大変な、厳しい大学での生活は、地球人を大いに悩ませた。そして、好むと好まざるにかかわらず、地球人は、物凄い勉強家の軍団を相手に、学問でも、熾烈な競争に巻き込まれていった。



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